デザインノート No.64: 最新デザインの表現と思考のプロセスを追う (SEIBUNDO Mook)「いろんなデザイナーがつくったロゴが載っててお得だな〜」と思ってこの雑誌を手に取ったのですが、掲載されてる対談の内容が良かったので紹介します。人工知能が浮き彫りにするクリエイターの本質「人工知能にデザインはできるのか」というテーマで、デザイナーの佐藤可士和さんと、人工知能の分野で研究されている松尾豊さんとの6ページにわたる対談。人工知能の発達の一方で、クリエイティブな仕事ではこれから何を大事にしていくべきか、そもそもクリエイティブな仕事とは何なのか、短い記事ながら集約されていました。特に印象的だった部分はこちら。人工知能が得意とするもの人工知能が得意とするのは、膨大な過去のデータや計算をもとに、様々なバリエーションのパターンを生み出すことです。しかし、どのパターンがクライアントにとって最適なのかを判断するといったコンサルティング的な部分は、人間じゃないと難しいと指摘されています。人間は、「危ない」「おいしい」「美しい」といった感性や感覚を生存競争の長い歴史の中で培ってきましたが、人工知能にはそれがありません。また、時代は変わるので、過去に売れたデザインが今売れるとも限りません。意識するしないに限らず、歴史的な背景から本能的な感性まで、デザインとは様々な要素が前提となってつくられるものであるとのこと。人間にしかできない仕事現在でも、建築現場などでは一部の工程を機械が行っていますが、ゆくゆくは全ての工程が機械に置き換わったり、食品加工や医療といったより広い分野に及ぶはず。これは、「ディープラーニング」という人工知能分野の発達…コンピュータが自分で学習し、よりよくしていく技術の発達によって可能になるそう。しかし、どのような結果を相手が望むのか、そのコミュニケーションまで機械が代替することはできません。いくら診断の精度が上がったとしても、治療法の選択というのは、人それぞれの価値判断によるものなので、人間同士が対話をして決めていくしか方法がありません。その時に必要になるのは、患者にしっかりと説明することができる医療の知識とコミュニケーション能力です。つまり、患者さんにとって何が問題なのか、どうするべきなのかというコンサルティング的な部分というのは、今後も人間の仕事になるのです。---P48本質とはこのインタビュー中で繰り返し登場するキーワード「本質」。松尾さんの語る「本質を見抜く力」の例えが面白いです。様々な要素がある中で、ひたすら選り分ける作業をしていくことができなければ、表面的な部分だけを見て、誤った因果関係を見出してしまう恐れがあります。例えば、占い的な考え方をすると、今日の自分に良いことがあったのは、ラッキーカラーのアイテムを身につけていたからだということになりますが、本質を見抜ける人というのは、今日うまくいったということが、過去のどんな行動に起因していたのかということを理解することができるはずです。---51p本質とは、その物事が持つ因果関係の根本にあるもの。なぜそれが売れているのか?なぜそれが人に喜ばれるのか?そうした問いを突き詰めた先にあるもの。…なのでしょうか。そして、デザインに限らず、クリエイティブな仕事で必要なスキルは「物事を抽象化してとらえ、その本質的なコンセプトや構造を抜き出すこと」。先の例のように誤った因果関係を見出さないためには、記憶力と、思考し「なぜ」を問い続ける続ける力…「選り分ける力」が必要になるのかな?と考えさせられました。おまけ他の特集も興味深かったので少し紹介します。good design companyに学ぶロゴ&マークデザインの極意代表の水野学さんと、good design companyで働く3人のデザイナーさんが、ロゴをデザインする時に何を大事にしているのかをお話しされています。印象的なのは、水野さんのこの言葉。ロゴやマークのデザインの目的は、クライアントの好むものをつくることではなく、企業の価値を高めたり、売り上げを伸ばすことだということを忘れてはいけません。---10p改めて見るとハッとさせられます。他にも、みなさんがそれぞれに、どのようなことを大事にしてデザインしているのかが伝わる特集でした。あるコンセプトが、どのように形成されていくのか、プロセスと一緒に学べます。全国47都道府県を網羅!ロゴ&マークはやっぱり楽しい。なかなかおもしろい特集ですよね。ロゴデザインをまとめた冊子って結構高いんですが、この雑誌は1600円(税抜)なんで結構お得。本誌の9割くらいロゴ作品が載ってて満足感もあります。デザインノート新ロゴメイキング前号からロゴが新しくなっているそうで、そのメイキングの様子が紹介されていました。制作は、甲谷一さん。6ページで、内2ページは過去の作品集。制作での具体的な工程とその様子、またロゴデザインに関する考え方をお話しされています。オリエンテーション手書きラフ文字打ち出し提出前ラフ提出ラフブラッシュアップ完成これらの工程でどんなことをしたのか、写真付きで具体的に解説されています。プロセスを知ると、完成されたロゴがより説得力あるものに感じられますね。お話の中で印象的だったのはこの2点。クライアントを説得するためには言葉が必要それに加えて、パッと見て魅力的がどうかが大切過ちがちだと思いますが、決してデザインは、クライアントの許可を通すことが目的ではありません。水野さんの言葉の通り、「企業の価値を高め、売り上げを伸ばすこと」です。それはデザイナーが人として生きて、勉強して積み重ねてきたことを発揮してしてこそ生まれるもの。パッと見て魅力的に映るものを、デザイナーがとことん追求してつくろう。そんな、それぞれのインタビュー特集で言われていることが線につながったような感覚のある記事でした。まとめ世の中に出回っているロゴデザインには、一つひとつがアナログな手作業で調整された、デザイナーの心血が注がれたものだということ。そうしたデザインをこれから自分も作り続けていくためには、単に表面的なデザイン(見た目)をつくるのではなく、どんな見た目がどうして必要なのか「選り分け」てクライアントに提示していけるデザイナーになる必要がある。そして、人工知能が台頭しているとはいえ、機会が人のクリエイティブをすぐに代替はできないし、代替されないようなバリューを発揮していこう。そんなことを学んだ1冊でした。デザインノート No.64: 最新デザインの表現と思考のプロセスを追う (SEIBUNDO Mook)