CSS Nite LP46「ビジュアル・ドリブンのデザイン」で長谷川恭久さんが推薦されているなど、話題だったこの本…「みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド」をようやく読み終えました。どんな本かざっくり言えば、「デザインをより良くするためのチーム内のコミュニケーション」について、どうしたらより良くできるのかアドバイスしてくれます。「批評」とは、コミュニケーションで使われる「ツール」のような存在です。他のデザイナーのデザインを批評したり、クライアントに自分のデザインを説明したりといった時。どのように振る舞えばよいか、どんなプロセスを目指すとよいか、といったヒントも。また、チームメンバーから批評を受ける機会も多い(はず)ですが、そこで必要な「心がまえ」についても書かれています。デザイナーではない人が読んでも学ぶことが多いはず。デザイナーがつくったデザインに対してフィードバックをする機会がある人(ディレクター、エンジニア、幹部、発注者など)にも、デザインを正しく批評するスキルは求められます。関わる全員が効果的な批評ができれば、そして、デザイナーも受け止める正しい姿勢を持っていれば、より良いデザインをチーム一丸となって追求できるはずです。本の構成第1章:批評を理解する 〜 第2章:批評とはどのようなものかまず、「批評」とはそもそも何か、それがフィードバックとどのような関係があるのか、どんな価値をもたらすのかを知ります。そして、批評に関わる2つの立場…「批評する側」「批評される側」、それぞれに必要な心構えを学びます。よい「批評」にはこれらの理解が欠かせないこと、そして、その理解がチームでの会話の質の向上につながることを伝えてくれます。第3章:文化と批評 〜 第4章:批評をプロセスの一部にするチーム・組織の中で「批評」することの課題・障壁を知ります。それを踏まえ、ではどんなツールやプロセスで実施するのが好ましいのか、さらに実施に伴って起こり得る問題について学びます。実際に批評がなされる場を、「スタンドアロン型の批評」「協働活動」「デザイン・レビュー」の3つに分類しています。それぞれの特徴・問題点を踏まえつつ、いつ・どの程度・どれくらい頻繁に実施するべきか論じられています。第5章:批評のファシリテーション 〜 第6章 扱いにくい人々、厄介な状況チームでの批評に必要なことを、具体的に学ぶことができます。どのような準備が必要なのかどんなルール・テクニックがあるのか集めた批評をどう活かすのかそして、「扱いにくい人々、厄介な状況」に直面した時にどのように対応していけばよいかアドバイスが載っています。第7章:サマリー:批評はすばらしい協働の中核をなす全体のまとめです。印象に残ったところ自分があまり意識できていなかったところ、聞きなれない単語などでなかなか飲み込めなかったところについて整理しておきます。批評とイテレーション「デザイン」=「目的のために何か制作に取り組むと決めて、アイデアをプロダクトの形へと発展させること」とします。どのようにしてその発展を促すのか、また、どのタイミングで区切り変更を加えるかが、目的達成までの間…プロセスで課題になります。プロセスは2つに分類できます。イテレーティブ(反復型): ソリューション(できあがったもの)に繰り返し変更を加え、徐々に有効性を高めていきます。つまり、その時点で最高のソリューションをつくり、それをユーザーの声を聞くなどして分析して、また新しい仮説をたててつくる…というプロセスです。インクリメンタル(積み上げ型、漸増型): 最終的なソリューションをあらかじめ定義し、そこに必要な工程を分解して段階的に進めていくプロセスです。定義する時と各段階でのものづくりでは、その時点での問題理解の深さや先見性が重要になります。そもそもイテレーティブなプロセスでしか批評は生まれません。決定事項を分析し、有効でないと判断されたデザインに変更を与える機会がないと、批評する場がありません。また、イテレーティブなプロセスでデザインの方向性を決めるのに必要なのは、批評です。批評とイテレーションは切り離せない関係にあります。一方、インクリメンタルなプロセスも重要です。大きな方向性が決まっていないと、批評の方向性がバラバラになってしまうためです。これらを知らなければ、良い批評が生まれる環境・文化を目指すことができなません。批評とファシリテーションファシリテーションとは、「明確な意図をもって、結論を導くために会話をバランスよくコントロールすること」です。デザイン批評では、思いつきで一貫性のない意見が飛び交ってしまいがちなので、枠組みをファシリテーターがつくり、会話を円滑に進める必要があります。以下が具体的な枠組みの例。デザインの目的は何か?目的に関連しているのは、デザインのどの要素か?そうした要素は目的を達成するのに効果的か?それはなぜか?良い批評ができる組織づくりのためにできること一つは、製品をより良くしたい!という思いに共感してもらえるチームメンバーを見つけることです。協力して批評、コミュニケーションの基盤、文化をつくりあげるのです。以下が「製品の目的」の枠組みです。あるユーザーのために、(ペルソナ)適切な状況で使用した時に望ましい体験を生み出すべく、(シナリオ)正しい挙動と特徴をもったデザインを作り、(原則)目標を達成することである。まとめデザインに関するコミュニケーションについて苦手に思っている人にはぜひオススメです。ちなみに、巻末に「批評をダメにする10の悪しき習慣」が詳しく書いてあり、なかなか共感できます。反応する(じっくり考えず、思ったことだけそのまま口に出す)自己中心的になる自己防衛的になる基盤が異なる焦点があっていない機能していないことにだけ注目するディスカッションが行われない参加しない問題を解決しようとする(分析の最中に問題解決に切り替えてしまう)批評とデザイン・レビューを混同する同じことを自分がしてしまわないようにしよう、と思えるだけでも、読む価値があったなと思えました。みんなではじめるデザイン批評―目的達成のためのコラボレーション&コミュニケーション改善ガイド