職場の先輩に教えていただいた本が刺激的でした。デザインするな―ドラフト代表・宮田識株式会社ドラフト代表 宮田 識(みやた さとる)さんが、デザインとどう向き合ってきたか、どのようにしてクリエイティブを創り上げてきたのか。そして、デザインと社会との関係性、クリエイティブな環境や人がどのようにして生み出されてきたのか、デザインの面白さとは何か、など。前半は文章のみですが、クリエイティブ、いや宮田さんの"すごさ"が言葉だけでも伝わってきます。そして後半の作品集で実際のクリエイティブを見て、「なるほどあの作品はこう表現されたんだ!」と繋がる構成が見事。第三者による客観的な文章であることも、自分の好みに合ってたのかもしれません。本の内容を、少し紹介します。構成1章 道を識(し)る宮田は怒る。「デザインするな」…この言葉から始まる、序論です。35ページながら、デザインするなと代表が怒鳴る会社でデザイナーが育つ理由や、ディレクター(アートディレクター、クリエイティブディレクター)の力、そもそもデザインは社会に必要とされているのか、といった濃いテーマに対する宮田さんの考えが明らかにされます。2章 道を定める宮田さんの、いわばデザインの軸が形成される過程。「0歳からゆっくりと成長し続けている」と語る宮田さんの誕生から始まり、日本デザインセンターへの入社、独立時の経験や、モスバーガー、PRGR、ラコステのプロジェクトでの出会いや学びが紹介されます。3章 道を行う2章の頃に学んだことがその後の様々なプロジェクトにも表れ、クリエイティブを発揮している様子が描かれます。プロダクトデザインプロジェクトD-BROSの試み、キリンやワコールでのクリエイティブについて、など。4章 道をつなぐ人が育ちデザインが育つドラフトの姿が、様々な人へのインタビューの中からあらわになっていきます。感想宮田さんの取り組みやクリエイティブを辿ることで、「デザイン」で何ができるのか、何のためにデザインをするのか、より明確に意識することができました。また、デザインに向き合う姿勢や考え方も、読んでいる限り頷けることばかり。デザイン、ブランディングの本質について、自分自身の考えを見つめ直すよい機会になりました。文章も非常に読みやすいので、なるほど人にオススメできる本です。あとがきにて、著者の藤崎圭一郎さんがこの本で大切にしたことを何点か記されていますが特に印象的なのはこちらです。宮田識をカリスマ的に描かない宮田識やDRAFTを知りたい人のための本でなく、デザインを知りたい人のための本にするディレクター道を書く。世間のあらゆるディレクターと呼ばれる人たちに共感してもらえる内容にする1、2はよく考えられているなと思ったし、そのおかげか読後感がとても気分良いものになっています。純粋に読み物としても面白かったです。3番はいかがでしょうか。私はデザイナーですので、ディレクターの皆さん是非読んでみてください。印象に残ったところ本の内容で特に印象に残ったものを、一部抜粋、紹介します。庭のあんずをみて、「ヘンだな」と感じる感性が、広告や商品開発、ブランディングへ展開されていく様を描き出し、デザインと社会の関係を語るのが、本書の目的である –––P6枝葉を整えるばかりがデザインではない。生活に使える木を伐るばかりがデザインではない。森を育ててこそデザインである。 –––P19自分の個性がわからなくなってしまったら、自分が20歳くらいまでに育んできた感覚を確認してみるといい。そうするとおそらく、10代の頃からずっと自分の中にある感性と、今自分が見ているものがどこかで重なってくる。そこに自分の表現が見えてくるはずです。 –––P23デザインとは、頭の中に思い描いたことを複写することです –––P27新しい表現を生むことだけだったら、デザインは(社会にとって)必要とは限らない。僕は、そもそも人や企業や社会がどうあるべきかを思い描いて、それを実現していくことがデザインだと思っている。 –––p44デザインは、単純にカッコいいものをつくるだけじゃ済まされない。その商品やそれを売る企業が、社会から『ここにいてもいいよ』と認めてもらうようにすることがデザインなんだよね。だから、僕は、いい売り方をするとか、いい商品をつくるということまで口を出す。 –––p132僕らのやっている広告やブランディングは、広告主が望む効果を達成して、仕事として成立したからといって、正しい仕事をしたことにはならない。この商品は社会に社会にとって要るものなのか要らないものなのか。そういうことを判断して、企業と付き合わないといけないと思う。 –––p139デザイナーは「相談屋」ではない。コンサルタントの役割もするが、(省略)、最終的にアウトプットを生み出すことが、デザイナーの仕事である。 –––p185〈かな、かな、かな〉は、カンから理を識る術である。仮説を立てて検証し、そこにパターンを見出し、それをまた別の仮説に応用して、また検証して、ということを繰り返し、物事の仕組みを直感的に読み取る。簡単に真似できるものではない。 –––p195宮田さんが打ち合わせのときに企業に対して怒ることは、「それは企業の論理で、世間の感覚から見ると、そのやり方はおかしいだろ」といったことなんです。そこから始まって、本来、社会ってものは、となると、話が延々と長くなる –––p213許せないものは、どんなものでも「イヤだ」という。そういうところにスタッフがついていくんじゃないですか。たとえ広告であっても、本当のことをやろうよ。本当のことじゃないと伝わらないよ。そういう宮田の思いに、人がついていく、 –––p229是非本を読んで、これらの言葉の真意にふれてみてください。デザインするな―ドラフト代表・宮田識