融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論 インターフェイスデザインをテーマに、「ハードとソフトとネットが融け合う時代」でデザイナーやエンジニアが身につけるべきデザイン(設計)論が語られています。かなりの良書。「はじめに」の内容から最後まで、ワクワクしながら読み終えました。全体的な感想ハードウェア・ソフトウェア・インターネットが融け合う、身体的で体験的なものづくりの時代には、新しい設計論が求められる。 - p008凄まじい早さで発展してきた情報技術。10年前の私は、スマホがこれほど普及すると想像していなかったでしょう。そしてこれからも同じく、想像もしなかった技術が生活の中に浸透していくはず。そんな“今”の時代の情報技術は、以前から何がどのように変わったのか。肌で感じていても言葉で説明するのが難しい。その理由はきっと、変化した時代を「変化する前の時代」の理論や感覚で説明しようとしたからです。インターネットのあり方が大きく変わった今、デスクトップPCしかない時代では表現できない部分があります。そんな変化を、「自己帰属感」などの概念(キーワード)で言語化されています。インターネットの変化を日常生活の中で直接感じているからこそ読んでみて、言葉にできなかったことが言語化されてスッキリ!する気持ちよさがありました。本の中で示されていることデザインにおいて、見た目の良さだけでなくユーザーインターフェイスの使いやすさがなぜ重視されるようになったのか。デスクトップPCの頃から、時代(インターネットやコンピュータを取り巻く環境)がどう変わったのか。「インターフェイスデザイン」「インタラクションデザイン」とは何なのか。これからの「デザイン」に必要なことは何か。…などたぶんこんな人にもオススメ何かしらWebに関わる仕事をしている、または興味があるUX、UI、IoT、人間中心設計などのキーワードに興味があるスマホやパソコンなどインターネットを取り巻く環境の変遷や将来を考えたい印象に残ったこといろいろありすぎて、どれをどこまで挙げたらいいのか答えが出ず…。特に重要なキーワード「自己帰属感」や「道具の透明性」については、Webマガジンの5ページにわたる記事の中で著者がふれているので、ぜひ読んでみてください。iPhoneはなぜ気持ちがよいのか? (1/5) | Telescope Magazineインターフェイスの話の本筋とは外れますし基本的な考え方かもしれませんが、なるほどなと思った話をいくつかピックアップしました。UX(ユーザー体験)を3つのレイヤに分けるUX(ユーザー体験)というキーワードの定義は、テーマ、文脈によって揺らぎがちです。例えばあるプロダクトの「UX」を語るとき、ユーザーが魅力を感じるタイミング(トリガー)は、そのブランド自身が持つ価値や、「日本人」など地域・文化によるもの、使っていて心地良いかどうか、など様々です。議論では、「UX」が指す対象や範囲をはっきりさせる必要があります。そこで、著者の場合「体験」を3つの設計視点(レイヤ)に分類しているとのこと。社会レイヤ…価格設定などの経済的合理性や、流通のように人の手に届くまでの社会システム、流行など文化レイヤ…人間のコンピュータとの向き合い方や活用方法、コンテンツのストーリーなど現象レイヤ…人間(無意識も含む)の振る舞い。モノやデバイスに触れる(見るなども含む)最中の知覚や身体への親和性など例えば、マーケティングでは、売上やブランディングといった視点が重要になり社会レイヤでの設計が求められます。その時、現象レイヤは直接の売上に結びつきにくいため議論の外になりがちです。ただし、その設計ができていないと「使いにくい」と感じてしまい、使うのをやめる理由、次回は買わない理由になります。もし社会レイヤだけ設計が良かった時は、ユーザー(購入者)は購入時の印象と使用感とでギャップを感じ、騙されたかのような印象を持つことさえあります。ユーザー体験の分類は、「使いやすい」デザインがマーケティング的に「売れる」デザインであるとは限らないことの説明にも役立ちます。ちなみにこの本では「現象レイヤ」「文化レイヤ」での視点に基づいたデザイン論が展開されています。デザインに関する本やイベントでは、多くの場合「社会レイヤ」が重視されていた、という著者の言葉にも共感。終わりに紙版は品切れで高騰していましたが、最近Kidle版も出たようです。「誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論」も改めて読んでみたくなりました。それからまた「融けるデザイン」を読み返してみたいと思います。融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論